REPORT/COLUMN
REPORT | 古いものにしかない魅力を伝えたいという想いで始まった築100年の古民家「樹木荘」について発起人の六鹿崇文さんにインタビュー
取材:まえぷー(TAP magazine編集部)

今回は、豊田市樹木町にある樹木荘のリノベーションを発起した六鹿崇文さんに、築100年の古民家を選んだ理由や樹木荘のコンセプト、今後の展開などお話を伺ってきたので紹介します。
 
樹木荘とは、2024年1月ごろからその施設が公開され、珈琲の提供や本の販売などを手掛けるROJI COFFEE&BOOKSや古物や一輪挿し、置物などを販売するsabiなどを含めた施設です。
 
築100年以上も経つ建物は現在も改装を続けており、その経過をも楽しむ豊田市に新たに誕生した場所として公開されています。
まるでタイムトラベルのような感覚を味わえる一種のアミューズメント施設となっています。
 
 

樹木荘のはじまり

 
樹木荘の発起人である六鹿さんは、解体されてしまう建物に、使われなくなった廃材を利用して復興させる空間づくりのお仕事をされています。
 
産業の発展に伴う人口の増加により利便性を考慮するためとは言え、歴史ある建物や風景が次々に壊されて新しいものへと変わっていく様子を悲しく思われたそうです。
 
古いものにしかない魅力を自らの手で伝えたいという想いをもっていたところ、推定築100年を超える古民家を利用しないかと声がかかり樹木荘が始まりました。
 
県外からも多数の方が来訪される豊田市美術館に近く、町の緑化率が40%と自然も多いここ樹木町で、観光という視点でエリアリノベーションとしての散歩コースの一部となることも一つの目的として掲げられています。
 
筆者である僕自身、初めて樹木荘へ伺った際には、ネットでの情報が少なく住所の公開もされていない状況でした。
 
頼りになるのは手書きのマップのみで、散歩がてらフラッと立ち寄って欲しいという目的だったと思われますが、まるで宝探しのような感覚で散策することができました。
 
散策中に立ち寄った樹木公園からの眺めは圧巻で、もしお店の住所を知っていたら最短ルートでたどりついていたためにこの出会いもなかったのだなと思うと、決して近道だけが都合が良いというわけではないと肌で感じることができました。

 
エリアリノベーションの他にも、”モデルケースの一つとして”という目的もあり、廃材を転用することでデザインを調和させつつ、手入れができるという面を活かしまた使えるように循環させる仕組みにも着目されています。
 
ただ古くなったものを再利用するだけでなく、将来性のことも考えられた上での施策というところに樹木荘や六鹿さんの魅力が現れていると感じました。
 
 
築100年の歴史

 
100年以上も経つ樹木荘の建物は、当時住宅として使われていたと思われ、庭には牛舎も存在していたそうです。
 
それが街の発展に伴い愛知環状鉄道が建設されたことで、住宅を移動させる必要が出てきました。
 
1度目は移設(建物をそのまま移動させること)、そして2度目は移築(一度解体して別の場所で再建すること)という形で、計2度の移動を経て現在の位置に定着しているそうです。
 
2階もある建築物を移動させる技術があったことにも驚きですが、それがここ100年の間に2度も行われ、現在まで崩れることなく残存していることから、木造とはいえ強度や建築技術に光るモノを感じました。
 
(古くなった木でも腐るわけではないそうで、法隆寺は1000年も経過しているのだとか)
 
 
ROJI COFFEE&BOOKSとの出会いと今後のお店づくり

 
「五感で楽しむ、非言語的なもので楽しむ場を提供したい」
 
美術館が好きな人に来てもらえるようにアート的なものづくりを見せる場にするべく、樹木荘では物が作られていく過程を含め、一つのコンテンツとして建物を改装していく姿を公開しています。
 
現に樹木荘は一階にある一部のスペースしか公開されておりません。(2024年3月執筆時)
 
ただ、ものづくりの場を見せるだけでは、人が集まりにくい、知ってもらえる母数が少ないのでそのきっかけとして飲食店のようなキャッチーな部分を設けたい。
 
そう考えていた時にROJI COFFEE&BOOKSと出会ったそうです。
 
ROJI COFFEE&BOOKSの発起人である中島希さんには、直接六鹿さんから話があったわけではなく、偶然か必然か、縁あってお話が転がり、直感的にピンときて「やりたい!」と手を上げられたそうです。
 
樹木荘の建物を探されていた時といい、ROJI COFFEE&BOOKSと共同することになった時といい、どこか元からなるべくしてなった運命のような“繋がり“を感じ、こうして僕が紹介させていただいているのも繋がりの一つなのかもしれませんね。
 
そうしてこの記事を通して読者の方にも繋がっているのであれば、メリーゴーランドのように回転しながらみんなで楽しめる施設になるのかな、なんて妄想も膨らみます。
 
僕たちは完成されたものは街に溶け込んで見なく(見えなく)なりますが、工事中の現場には「何ができるんだろう」と興味を示します。
 
作っているものを可視化することで、街の人がどう感じるのか。
 
一種の社会実験として樹木荘が立ち上げられたともおっしゃってはいますが、失礼ながらも、もしかすると全て発起人である六鹿さんの”わがまま”とも思います。
 
樹木荘の改装の中に自身たちも交ざるこの環境こそが、豊田市の街づくりを変える一歩だと感じました。
 
新たな着眼点を与えてくれた樹木荘が今後どう変化していくのか。
 
一人の建築好きとして、豊田市民として、とても楽しみです。

取材:まえぷー(TAP magazine編集部)

ブログやライターとして活動しつつZINEを作成/販売するなど、文章を愛し文章に愛された男。
建築や暮らしを趣味とし、生まれ育った豊田市の魅力を得意の文章という手札で切り開いていく。
知られざる豊田市の奥深さを文章に愛された男のフィルターを通して発信していけたらと思う。

 
樹木荘
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