REPORT/COLUMN
INTERVIEW | 『ALL TOGETHER GET HIGH』は「誰とでも一緒にいける」ということ ハラプロジェクトの原智彦さんと藤井朋子さん
原智彦・藤井朋子(ハラプロジェクト)

今回のインタビューは名古屋を拠点に活動するハラプロジェクトの原智彦(はらともひこ)さんと、藤井朋子(ふじいともこ)さん。
原さんは「スーパー一座」の座長を務め、2005年にハラプロジェクトを立ち上げました。
百姓の身体作法(股割・すり足)を大切にし、音楽・美術・映像を融合させた「パンク歌舞伎」やゆっくりした動きで会場を歩く「HAIKAI」などユニークなパフォーマンスや演出が魅力です。
藤井さんはハラプロジェクトに在籍して10年。小柄な体型を活かし子供の役から老人の役まで幅広く演じ、観る人を惹きつける個性を放っています。
 
ハラプロジェクトはこれまでに農村舞台の寶榮座、橋の下世界音楽祭、西町会館など何度か豊田で公演を行なっています。今回は豊田で公演するきっかけをはじめ、原さんと藤井さんの出会い、また7月の公演についてインタビューしました。
 
少し肌寒い夕方。場所は、ハラプロジェクトの稽古場としても利用している名古屋の白川公園。「明かりが綺麗に見えるところを探そうよ」と原さん。ポツリと灯りはじめた街灯の横でお話を伺いました。
 
 
-豊田で公演をするようになったきっかけを教えてください。
原:当時(1985年頃)はスーパー一座の公演でヨーロッパをまわっていた頃だね。
ヨーロッパに行く前に、豊田で地域おこしをしていた小澤さんという方と話してて「ロック歌舞伎?それは面白い!うちの町でやらんかい?」て言われたんだよね。
それで「やるやる!」って。
海外から帰ってきたらもう公演が決まってて、足助人学校の一環でやったんだよね。
15、6軒の小さな集落の農村舞台(寶榮座)に、500人くらい集まったかな。
 
-500人ですか!?
原:「ヨーロッパと足助の景色は一緒だ!ここは古いんじゃなくて、新しいんだ!」ということを足助人学校の小冊子で僕が力説したね。
 

スーパー一座ロック歌舞伎『鳴神』(1985年)足助人学校での公演

溢れんばかりの観客で埋まった寶榮座の客席(1986年)

 
その時の寶榮座は、戦後から約40年の間ほとんど使われてなくて。廻り舞台の絵もまだ残っていて、岩田さん(岩田信市(いわたしんいち):「スーパー一座」主宰)が「原、この背景画はすごいぞ」と言ってピンセットで背景画の修復をしたな。スーパー一座の演劇研究所の卒業公演の会場としても7年間使ったんだけど、それ以後長らく使ってなくて。
4年前に寶榮座運営協議会の青木さんから声が掛かって、今度はハラプロジェクトとして『姨捨』(2017年)を公演したんだよね。
それからは毎年公演してるかな。去年はコロナでできなかったけど。
僕にとってはホームだよね。僕が一番あそこで公演してる。
 
スーパーコミック歌舞伎『足助版 鈴ヶ森』(2019年)寶榮座 photo:安野亨

 
原:豊田によく来るようになったきっかけはさ、愛樹(永山愛樹(ながやまよしき):豊田で結成されたパンクバンド「TURTLE ISLAND」のボーカル)なの。
不思議な縁でさ、スーパー一座の最終公演に愛樹がきたの。
知り合いに「原さんに是非紹介したいやつがいるんだわ!」と言われて紹介してもらったのが最初。
公演終わりに会って「すごい面白かった!」と愛樹が言ってくれて。
そのあとTURTLE ISLANDのCD『深海』をくれて、聴いてみたらスーパー一座・ロック歌舞伎『マクベス』の戦闘シーンを思い出したんだよね。
その後すぐ電話したの。「愛樹くん、俺と一緒に革命を起こさんか?」って。笑
もう一回、生でロック歌舞伎をやりたいなと思ってたこともあって、そこで〝パンク″歌舞伎『マクベス』(2010年)をやったんだよね。
 
パンク歌舞伎『マクベス』(2010年)photo:安野亨

 
その縁がきっかけで、「橋の下世界音楽祭」でも何度か公演してるね。
橋の下世界音楽祭は全ての電力を太陽光パネルで賄ってるんだけど、あるとき曇りでさ。
途中で電力が足りなくなっちゃって、売店の電気を消して、次に照明を消して…「原さん、もう電気ない!」て言われて。
藤井:あ!ありましたね。
原:それでお客さんに「懐中電灯持ってる人!好きな役者照らしていいから」て呼びかけて懐中電灯芝居。
それでもう大拍手。舞台と客が本当に一体になった瞬間だったね。
灯りは、暗闇があるから灯りの役目を果たすんだよね。
明るすぎるというのはさ、どんどん人と人との距離が遠ざかっていくんだよ。
人と人とが近づくためにはどうしたらいいか、良くわかり合えるためにはどうしたらいいか。
僕「ALL TOGETHER GET HIGH」て言葉をよく使うんだけど、「ALL TOGETHER」は「みんな一緒になる」ということでなく「誰とでも一緒にいける」こと。「お互いの違いがわかり合える」ことなんだよね。
だから今自分がやってることが楽しいんだよね。
僕の舞台は、ホームセンターで入手できる器具で充分。
目に優しい暖色系で心地よい空間。
お母さんのお腹の中のような灯りで芝居をつくる、これが僕の未来の芝居。
 
灯油ランプの光のみで行われた無電力芝居『藪の中』(2018年)橋の下世界音楽祭の公演 photo:安野亨

 
-原さんと藤井さんの出会ったきっかけを教えてください。
藤井:鶴舞のK・Dハポンにバルナギータのライブを観に行っていて、そこで原さんに初めて会いました。
原さんのことは全然知らなくて、少し話して「今度またここでやるからおいでよ」て。
それからパンク歌舞伎の『マクベス』をお客さんとして観に行ったんですが、最後の挨拶で「客席で見るのも楽しいけど舞台に上がったらもっと楽しいから一緒にやりませんか?」て原さんが話してたのを聞いて。
たしかに「絶対あっち側の方が楽しいだろうな」て思って入りました。
初舞台は『リア王』(2011年)です。
それまではお芝居をやったことがなかったので、猛特訓したのを覚えてます。
 
パンク歌舞伎『リア王』(2011年)での藤井さん photo:安野亨

 
藤井:ハラプロジェクトに入ってから、お気に入りになったCDは『歌舞伎の名台詞集』。
一人で車の中で聞いてそれの真似をする…。原さんがやるとかっこいいけど、自分でやるとできなくて。
かっこよくできないとお客にも伝わらないから、ひたすら練習して体で覚えるようにしてます。
原:ともちゃんは自分がやりたいときに稽古をしてるから安心して任せられる。
欲しがるっていうことが大事なんだよね。
ともちゃんは盗んでると思うね、知らないうちに僕から。目で盗んで耳に盗んで。
藤井:欲張りだから。「もっと楽しいはず!もっと楽しいはず!」て目指してます!
 
-それこそALL TOGETHER GET HIGHですね!
藤井:あと生音が好きですね。歌舞伎のリズム、和のリズム、TURTLE ISLANDの音楽!
パンク歌舞伎の時はTURTLE ISLANDの音楽でお芝居ができるから、ワクワクドキドキが止まらなくて。
生音を聴きながら体操して「なんて幸せなんだろう!!」って。
原:僕と一緒だね。僕も岩田さんも「生音以外考えられない」って思ってたの。
 
-この機会に、お互いの魅力について教えてください!
原:ともちゃんはさ、ちっちゃいけど面白いんだよね。
藤井:どういうことですか?笑
原:要するに人間と神の中間というか、化けるんだよね。
原作よりも、ともちゃんのオリジナルの役が面白い。声がいいんだよね、僕はそれに惚れたの。
意識的に作り上げたものでなく、もともとあったもので財産なんだよね。
何年もハラプロジェクトでやってきて、ともちゃんは同志って感じ。そこまで信頼できる役者は初めてかな。
名前が「とも」で一緒だからかな。笑
藤井:原さんの演出はその人の面白いところを引き出すというか、癖や個性をそのまま活用するから、演技ではなくリアルなんですよね。
原:失敗するとみんな「怒られる!」て思うんだろうけど、俺は失敗を採用するな。失敗ほど面白いことはないよ。失敗するのが人間。だから稽古は面白い。誰か失敗しろしろっていつも思ってる。笑
 
「姨捨」(2015年)での原さん(奥)と藤井さん photo:安野亨

 
-7月4日に寶榮座で行われる七夕歌舞伎についてお聞かせください。
原:人間の葛藤や心の描写が多いのが近松門左衛門の作品のいいところ。
「俊寛」はこれまで何回もやっているけど、やるたびに変わっていくし変わることに任せていける。
話に任せて作っていける珍しい作品だよね。
歳をとって変わっていく俊寛も、自分自身みてみたい。
今回の寶榮座の公演は全曲クラシックだから、いつもとは全然違う俊寛になるんだよね。
藤井:「俊寛」の千鳥役を演じるのは今回で3回目。
1回目は橋の下歌舞伎で2回目はパンク歌舞伎『地獄極楽』です。
千鳥は純真な海女。千鳥ほどの愛が想像つかないので今は型を増やして稽古をしてます。
体の形を作ると気持ちも一緒についてきて、観る人に伝えるためじゃなく役者の気持ちも作ってくれる。
型ってすごいなと改めて思ってます。
 
-今回のプログラムにある民謡舞踏という言葉も初めて聞きました。
原:僕の造語だよ。民謡も踊りも土の中から生まれた。
もともと公共の電波で流れる民謡は好きじゃなかったんだけど、お祭りで流れる民謡は好きだったんだよね。
「にっぽん春歌紀行」という野坂昭如さんの本があって、労働歌、祭り唄、別れ唄、いろいろあるんだけど
その中に「活惚(カッポレ)」の曲があったんだよね。それまで「活惚」はカタカナで掛け声だと思ってたの。
で辞書を引いたらびっくり。「活き活きと惚れる」だよ?いい言葉だよね。
今回の民謡舞踏は、生活の中から生まれて人から人へ歌い継がれたエッセンスを大事にしたリアル唄だから、絶対におもしろいよ!
藤井:西守芳泉(にしもりほうせん)さんの唄もかっこいいですよ!
豊田の橋ノ下舎で開催している「民謡パラダイス」で三味線や民謡を習っています。
今はコロナ禍で行けないけど、ハラプロに入ったから芳泉さんと出会えたし。それがきっかけで豊田に行くようになりました。
原:寶榮座の公演は2年ぶりだね。
でも公演してない期間もなかなか楽しい期間だったね。
マンツーマンで役者の指導をしたり、色々やってたもんね。役者一人一人のレベルが上がってるからさ、是非会場で見て楽しんで欲しいね。
 
 
辺りが薄暗くなり街灯の明るさが際立ってきたところでインタビューは終了。
「暗闇があるから、灯りは灯りの役目を果たす」
そう話していた原さん自身が、人を照らす「灯り」のように見えました。
ハラプロジェクトの今後の活動にも目が離せません。
原さん、藤井さん、ありがとうございました!

原智彦・藤井朋子(ハラプロジェクト)

Instagram
 
豊田のお気に入りの場所
原:「緑陰歩道」
あそこは人も少なくて、そのまま演劇できる。
あそこだったらいろんなシーンができるなって思ってるんだよね。
演るんだったら、俺、一本作るよ。
 
藤井:「橋ノ下舎」
民謡パラダイスに通っていて、そこに通ってる子供達がどんどん大きくなっていく姿が好き。
他人同士が助け合ったり教えあったりできる場所で、寺子屋のようだなと思ってます。
 
ハラプロジェクト・七夕歌舞伎
日時:2021年7月4日(日) 開演14:00(開場13:30)
場所:寶榮座(諏訪神社境内:豊田市怒田沢町平岩5)
主催:農村舞台寶榮座協議会
主管:ハラプロジェクト
協力:萩野自治区・萩野NPO結の家・巴一座
写真:安野亨

 
取材:森井早紀
TAP magazine編集部。
アンダーグランドな音楽と美術と映画をこよなく愛すちょっと変わった人。
橋の下世界音楽祭に衝撃を受け、豊田の街に魅力を感じ始める。
自身も作家活動を行なっており、2020年に豊田市美術館ギャラリーで自ら企画したグループ展『HELL THE TRIP』を開催。
豊田の魅力を発信しながら、何やらおもしろいことを企んでいます。

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