REPORT/COLUMN
INTERVIEW|藤井達吉の想いを受け継いで・小原地区在住の漆芸作家・安藤源一郎さん
漆芸作家・安藤源一郎さん

前回のインタビューでお話をお聞きした藤本由美子さんからご紹介をいただき、今回は小原地区出身、在住で漆芸作家の安藤源一郎さんにお話を伺いました。

 

―安藤さんはいつから小原地区で制作を続けられていらっしゃるのでしょうか?
もともとは愛知県立芸術大学で油絵を専攻していました。
大学院を終了後、祖父の代から漆芸に携わってきたので、伝統的な工芸の仕事もいいかなと思い、香川県漆芸研究所に入ることを決めました。
研究所を出てから、出身地である小原に戻ってきて、この地で制作を続けて16 年目になります。

―小原を拠点に、現在はどのような活動をされていますか?
主に県内外の個展やグループ展に出展したりして作品を発表しています。
ひとつの転機になったのが2019年3 月に行われたArt Fair Tokyoへの出展です。
「工芸=百貨店の美術画廊」みたいなイメージがあると思うのですが、今までとは違う方面からのアプローチを考えられた経験でしたね。

今回の取材で、特別に現在制作中の作品と工房の中を見学させていただきました。

―漆工芸の制作技法は本当に多様ですよね。
1つの作品を制作する時には多くの技法を使うのですか?
大別すると、ボディを制作するときの技法、表面を加飾する際の表現技法の二つが組み合わさっています。
漆工芸の本体は木でつくられているイメージがあると思うのですが、僕の場合は小原和紙を貼り重ねて制作する「紙胎(シタイ)」という技法を用いています。
表面には「蒟醤(キンマ)」という香川の漆工芸の伝統技法を用いて加飾をしています。

安藤さんの作品。表面には光沢の中に繊細に彫られた模様があります。
安藤さんが本体に使用している和紙

―少しピンク色なのは何の色でしょうか?
現在工芸に使われている和紙は着色に化学染料を使用していることもあるのですが、僕が作品に使用している和紙には土が含まれています。
常滑焼の急須に使うような朱泥を入れることでこのような薄いピンクの色合いを出しています。
土を含んだ紙は、土の粒が紙の繊維の間に入るので丈夫な紙になります。

制作中の作品を特別に触らせていただくと和紙の質感が感じられました

―安藤さんの技法である和紙と漆で本体をつくる技法のルーツはどこからなのでしょうか?
昔この地域で制作をしたことのある美術家の藤井達吉が伝来したと言われています。
藤井はマルチな方で、今でいうアートディレクターの様な活動をしていました。
当時小原にいた人々は生活のために紙をつくっていただけでしたが、藤井のアイデアによって小原和紙が工芸品や産業として発展していきました。
そのアイデアの一つに古からある技法で、紙と漆で器がつくれるということを人々に教えたと言われています。
藤井が図案集を制作していた際に良い紙を求めて小原に来たことがきっかけで、こちらで制作していた時期があり、その時に指導受けた一人が僕の祖父でした。

―美術家である藤井達吉とゆかりがある小原地区ですが、その様なつながりがあったのですね。
当時の藤井達吉のビジョンがいかに豊かなものであったかが想像できます。
これからその思いを受け継いで、どの様な展開をしていきたいですか?
現在、藤井からの教えである和紙と漆を用いて漆芸作品を制作しているのはこの辺りでは僕と父だけです。
和紙を何枚も塗り重ねて行くのは本当に大変な作業ですが、藤井がこの地に残していってくれたことを受け継いで、これからもこの技法や歴史、そして藤井の想いを残していけたら良いなと思っています。

 

最近では、和紙のふるさとが工房を開設したり、小原地区に漆の木が植樹されたりしています。
漆が取れる様になるために10 年くらいかかるので、それまで思いを受け継いで、頑張って活動をしていきたいですね。

漆芸作家・安藤源一郎さん

豊田のお気に⼊りの場所
リニューアルした鞍ヶ池公園がお気に入りです。
最近は子供を連れてよく遊びにいきます。

取材:森かん奈(TAP magazine編集部)
博物館や古美術商など様々な視点からアートを見てきました。博物館とおでんは似ているような気がします。いろんな人やモノが一緒に存在している空間って面白い、その面白さを伝えるにはどうしたら良いか。日々ゆるゆると考えています。おでんの出汁の様な存在になりたいです。

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