REPORT/COLUMN
REPORT | ギャラリーのような本屋、店主の工房でもあるマニアックな古書店~ライブラリーリエバナ~
Kohomi (TAP magazine 編集部)

世の中には特定の分野に特化した少しマニアックな書店、美術館というものがあります。
それらは大抵、あまり大きくなくて、訪れる人も少ないため、少し入りづらいような、独特な雰囲気があります。
けれど、好奇心とちょっとした勇気をもってその扉を開けたなら、そこから先に大きな世界が広がっていることでしょう。
豊田市にも、日本国内で、ここでしか見られないマニアックな書物に出会える場所があります。
それが「中世スペイン写本と古書の店ライブラリーリエバナ」です。
 

VITS豊田タウンの階段を下りたところにひっそりとあるライブラリーリエバナ

 
2021年4月、店主の藤田さんが会社勤めと並行してオープンしたライブラリーリエバナ。
リエバナ(Liebana)という名前の由来は、スペインの北部に位置する小さな村の名で、8世紀ごろ、その村にベアトゥスという名の修道士がいたとされています。
ベアトゥスが著したとされる「ヨハネの黙示録注釈書」は、その後10世紀から13世紀にかけて様々な挿絵が加えられ、数多くの写本が製作されました。
その写本に藤田さんは魅せられたのです。
 
写本とは、印刷技術が発明される以前、手書きで写され作られた本の総称です。「ヨハネの黙示録注釈書」の写本、通称「ベアトゥス写本」は、現在完本22点の現存が確認されており、世界各地のライブラリーやミュージアムなどで保存されています。それらはとても貴重なもので、一般の人が見ることはなかなかできませんが、写本をもとに複製された ※ファクシミリ本を通して、その世界を知ることができます。
 
※「ファクシミリ本」―私は初めてその言葉を聞いた時、「えっFAX?印刷本と何が違うのか?」と疑問に思いました。藤田さんにファクシミリ本の実物を見せてもらいながらお話を聞くと、それは単なるコピーの本ではないことがよく解ります。貴重な原本を研究するために作られるという目的もあり、本文、挿絵を高度な技術を使った精細な印刷によって正確に再現するだけでなく、その本の状態、ページのシワ、シミ、破れ、補修跡に至るまで忠実に再現される精巧な複製品なのです。
 
藤田さんが初めて手に入れたベアトゥス写本のファクシミリ本

 
藤田さんは今から約15年前、アメリカのモルガン・ライブラリー所蔵のベアトゥス写本の存在を知ります。「絵はそんなにきれいではないけれど、黙示録の世界が描かれた挿絵がおもしろい」と、徐々にその世界に魅了されていった藤田さん。その過程でファクシミリ本のことを知り、少しずつ集め出し、現在はベアトゥス写本のファクシミリ本を19冊コレクションしているそうです。
 
破れた個所を縫い合わせた補修跡も再現されたファクシミリ本

 

貴重なコレクションが並ぶ店内


 

貴重なエチオピア聖書や零葉が並ぶ棚

 
藤田さんが中世の写本に興味を持ち調べていくなかで、実物を見たいと思っても、日本で見られる場所はごくわずかだったため、自身が集めたコレクションもせっかくならいろんな方に見てもらいたいとオープンさせたライブラリーリエバナ。
その店内には、ドイツ、フランス、イタリア、スペインの中世写本のファクシミリ本、それらの解説や周辺の文化や歴史を記した洋書、和書が並んでいます。
また零葉(れいよう)と呼ばれ、写本のページをばらした貴重な1枚ものも販売されています。また非売品ですが、17~18世紀頃のものと推定される羊皮紙に書かれたエチオピア聖書も手にとって見ることができます。
 
藤田さんのオリジナル製本ノートや活版印刷の版が並ぶ棚

 
製本ノートをつくる藤田さんの工房スペース

 
そしてその隣の棚には藤田さんのもう一つの顔ともいえるオリジナル製本ノートが並んでいます。
会社員時代に始めたおもちゃの修理のボランティアから興味をもった本の修理。技術の習得のため5年間奈良へ通ったとのこと。
そして、本の修理を学ぶためには本の構造が解っていないとできないと製本を学び、そこで学んだ技術を活かしてオリジナルノート制作のワークショップも開催しています。
 
ギャラリーのような本屋、ライブラリーリエバナ。
単なる複製本ではない貴重なファクシミリ本に触れて観賞することができる中世写本の専門ミュージアムのような。
書かれている言語を理解することは難しいけれど、その書体や装飾の美しさ、挿絵に描き出される物語を想像しながら鑑賞するおもしろさがあります。
私は今回の取材を通して、ヨハネの黙示録の世界に触れてみたくなりました。
 

 
その時代の人が手書きで記した写本の世界を知ってほしいと語る店主藤田さん
今後は製本ワークショップを定期的に開催していきたいそうです

Kohomi (TAP magazine 編集部)

中世スペインの写本紹介 ライブラリー リエバナ
※営業日やワークショップの情報はHPやインスタグラムをご確認ください
【開館時間】10:00~17:00
【開館日】 毎週 水・木・金・日曜日
 
愛知県豊田市西町5丁目5 VITS豊田タウンB1F
名鉄・豊田市駅より徒歩4分
愛環・新豊田市駅より徒歩5分

 
Kohomi (TAP magazine 編集部)
2024年の私の漢字は「器」。
いろいろな人との出会いや経験を通して自分の器を磨く年にしたいと思っています。

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