2020年8月30日(日)、豊田市竹生町にあるコミュニティーレンタルスペースkabo.にて、朗読劇『two you』が上演されました。
この公演は、演劇の新しい上演形式を探るプロジェクト「とよた劇場元気プロジェクト」の一環として実施されました。とよた劇場元気プロジェクトとは、密閉空間で不特定多数が集まる劇場はウイルス感染が懸念される場所であるため、演者や観客が安心して参加できる演劇を検証するために立ち上げられたプロジェクトです。できなくなったことばかりを嘆くのではなく、「今しかできないこと」が生まれる好機ととらた、新しい発想での挑戦です。今回の演目を作・演出するのは、とよた演劇協会の会長・石黒秀和氏。石黒氏は「家族だから感染拡大のリスクが少なくなるということも出発点の一つ」と考え、一公演の観客を母と娘という関係の「二人だけ」に限定しました。
娘が産まれたその瞬間から老いた母が娘のことを認識できなくなってしまうまでの年月を、節目節目の母娘の会話を紡いで構成されている30分の朗読劇。会場にステージはなく、母役、娘役の二人の役者の前に十分な距離を空けて観客の母と娘が互い違いに座り、同じ目線の高さで役者が観客に語りかけるように上演されました。印象的に描かれていたのは、娘が見ていた「母の手」です。産まれた瞬間に出会った母の手、工場で働き油まみれになった母の手。物語の終盤、娘は自分のことを認識できなくなってしまった母の手に触れ、「ありがとう」と言います。他者に触れるということを気軽に行えなくなった今、触れることの尊さを感じました。
この娘の人生の中では、誰も経験しないような特別なハプニングやドラマティックなことが起こりません。その代わり、誰の人生でも起こりうるような喜びや悲しみ、苦悩がありました。それゆえに、「私の人生でありながら、あなたの人生でもある」と投げかけられているようでした。母娘の互いを想い合う心情に共感したのか、観客の母娘はそれぞれ目に涙を浮かべ、お互いの顔を見ながら照れくさそうに笑い合っていました。
家族との時間が増えるなか、母と娘という最小の関係性をあらためて見つめ直すことができる、濃密な時間でした。
日時:2020年8月30日(日)13:00、14:30、16:00
場所:コミュニティレンタルスペースkabo.(豊田市竹生町2-4-22)
作・演出:石黒秀和
出演:母/古河初美
娘/黒野さとみ
とよた劇場元気プロジェクト
主催:とよた演劇協会
共催:とよた演劇部
写真:永田ゆか
文:安井友美(TAP magazine編集部)