今回は、ガラス工芸作家・新實広記さんからのご紹介を受け、豊田市を拠点に彫刻家として活動をしている鈴木琢磨さんにインタビューをしてきました。
鈴木さんは豊田市内の高校や愛知県内の大学で美術教員としての顔を持ちながら作品制作をされています。
2月23日、この日は教鞭を取られている豊田東高等学校(以下、東高)の美術プランの卒業展示が豊田市文化会館で開催されていました。
展示室には現役の東高の先生方の作品もありました。
こちらが鈴木さんの作品。
乾漆技法(※)での彫刻作品です。
漆の黒く深い輝きが、独特の質感を感じさせます。
(※)乾漆とは、仏像彫刻技法の一つ。
漆を主原料とした粘土などを使ってかたちをつくる方法です。
木を軸に漆で形を造る「木芯乾漆」や、粘土に漆を塗った麻布を貼り重ねてかたちを作っていく「脱乾漆」などがあります。
今回は在学生の皆さんの作品を鑑賞しながら、鈴木さんご自身のお話や作品のルーツに迫ります。
-彫刻を学ぼうと思ったきっかけはどの様な理由でしょうか?
高校時代には美術の中でもデザインを学びたいと思っていましたが、デザイン的な視点でデッサンなどをしているとピントが合わないことに気づきました。
通っていた画塾を通して石彫作家の作品に出会い、彫刻的な目線を持つようになってから自分の中に腑に落ちるような感覚があって彫刻科に進むことを決意しました。
大学在学中は色々な素材を扱いながら、乾漆技法に出会い、これが一番自分のイメージを表現できる技法だと思いました。
象徴的な作品では女性像をつくることが多かったです。
女性性の中にある大きな芯のある魅力のようなものを表現したいと思い、大学時代にトルソーをつくりはじめました。
-卒業後はどのようなお仕事をされていたのでしょうか。
大学在学中から、アート系イベントやワークショップの企画に携わるアルバイトをしていました。
その仕事では、子どもを中心に、人と関わりながら造形教室のような現場を回していく経験を積みましたね。
当時のイベントづくりでは、美術系の学生を集めたり、取りまとめたりしていたので、そこで新しい出会いや繋がりがたくさん生まれました。
結果的にそこでの経験が重なって、それからの自分の展開につながっていったように思います。
-作品について、モチーフに猫をよく使われていますが、なぜですか?
昔は人体をよく作っていましたが、最近は子どもや猫をモチーフにしています。
人体彫刻の制作では、常に表現したい内容が先に在って、それを表現するためイメージに合わせてアトリエでモデルさんにポーズをとってもらったり、写真におこしてそれを参考に制作してきました。
子供も始め同じように制作していましたが最近、自分の中に居る子供のイメージをそのまま作ることが増えて来ましたね。
もともと、人と人の掛け合いみたいな作品を作りたいなと思っていました。
二体作ると空間が窮屈になるので一人、人の代わりになる生き物をモチーフにしたいなと考えた時に、人の身近にいて人らしさがあり、個性が強くて自立しているのは猫なのかなと思いつきました。
よく考えたら猫は昔から世界中どこにでもいる存在なのです。
犬は少し従順すぎるイメージがあったこともありますが、猫の身勝手さを含め、人らしい感じがしたので、猫と子供の組み合わせで作品をつくり始めたのがきっかけです。
-イべントのお仕事をされているときに参加している学生からインスピレーションを受けることはありましたか?
ないですね。
基本的に僕の作品は人を表現しているので、イべントに来てくれる人たちをよく観察しています。
本気で楽しんでいる時の表情って違うじゃないですか。
イべントに来て楽しんでいる表情がどんな感じかに興味があったので、できるだけ多くの人の表情や行動をみていました。
ただ造形的にラフを作るのではなく、そこにどういった表現を乗せていくのかを大切にして表現しているところはあります。
造形において、人の表情のかたちから読み取れるもののさらに奥の部分を表現したいという意識はありますね。
-最後に、これからのビジョンをお聞かせください。
今、大学でブロンズを素材として取り扱った制作を研究しています。
いろいろなパターンをテストして、最近の個展やグループ展でも何点かを発表しました。
彫刻は僕にとってライフワークでもあります。
アカデミックな部分もある分野なので、もっと幅広い方に自分の作品を見てもらえるように新しい挑戦をしつつ、これから徐々に国内や海外での展開もしていきたいです。
-これまで制作や企画を通し、豊田を拠点にエネルギッシュな活動をされていきた鈴木さん、今後のご活躍に注目です!
豊田のお気に入りの場所
作品には猫がよく登場しますが、私生活では犬を飼っています。
朝の散歩で通る藤岡神社付近の風景が美しくて好きですね。
取材:
森かん奈(TAP magazine編集部)
博物館や古美術商など様々な視点からアートを見てきました。博物館とおでんは似ているような気がします。
いろんな人やモノが一緒に存在している空間って面白い、その面白さを伝えるにはどうしたら良いか。
日々ゆるゆると考えています。おでんの出汁の様な存在になりたいです。
東村(TAP magazine 編集部)
とよたのまちを絵に描き起こしたり、まちの変化を探しながら散歩したり。
デザインを学びながら好きなことを自由にやってます。
微力ながら同年代にアートの魅力を伝えることができないか模索中。
⇨@higa_tt